先天性心疾患とは
先天性は文字通り「生まれつきの」という意味ですので、先天性心疾患は「生まれつきの心臓病」を指します。
生まれた赤ちゃんに「心雑音があります。」「心臓の病気が疑われます。」などと言われた時には、赤ちゃんが生まれた嬉しさから一転、とても恐怖を感じることでしょう。
まず初めにお伝えしたいことは、多くの先天性心疾患の子ども達は病気のない子ども達と同様に学校へ通い、運動をし、人生を歩んでいるという事実です。
もちろんこれは簡単なことではなく、本人と保護者の努力が不可欠に思います。そして残念ながら、病態によっては運動制限や妊娠に関しての制限など、時に命に関わることも事実です。
頻度は新生児の100人に1人に認められると言われています。学校で例えるならば、3クラスに1人は先天性心疾患がいるわけです。ですから、この頻度は先天性疾患の中では少なくはありません。このうち、遺伝子異常などが全体の約13%、催奇形因子や環境因子が約2%、残りの85%は成因不明の他因子遺伝といわれています。また、手術が必要な子どももいますし、生涯において手術が不必要な子どももいます。
先天性心疾患は、心臓ができる過程(心臓の発生)での異常ともいえます。
参考のために心臓のできる過程の動画です↓
1本の筒が複雑に捻じれて、4本の部屋ができていることが分かると思います。
この心臓の発生がうまくいかないと、様々な先天性心疾患となります。
また、先天性心疾患は非常に複雑で、同じ病名であっても同じ病態になるとは限りません。
医師は病態を診て治療(投薬や手術など)を行います。ですから、同じ病名であっても治療法が異なることが往々にしてあります。
インターネットで情報を得られやすい時代になりましたので、保護者の方もたくさんの情報を入手していただくことがお勧めです。しかし、ネットに乗っている治療法などの情報が、必ずしも自分の子どもの病気に当てはまるとは限らないので、よく主治医に相談する必要があります。
先天性心疾患の病気は理解が難しいため、主治医から説明を受けて1回で理解できる方は多くありません。繰り返し主治医に相談することもよいですし、「全国心臓病の子どもを守る会」などに参加し、情報を共有することもお勧めです。
www.heart-mamoru.jp
先天性心疾患における治療の考え方
今回は、先天性心疾患を治療していく際に、重要な2つの考え方をご紹介します。
ひとつ目は「本人の身体的成長を生かしつつ、適切な時期に適切な治療を行う」ことです。
例えば、未熟児で生まれた赤ちゃんの心臓に生まれつき穴(心室中隔欠損)が開いていたとします。心臓の穴を外科的に塞ぐためには、一度赤ちゃんの心臓をとめて、人工心肺装置を使用する必要があります。
しかし、赤ちゃんに人工心肺装置を使用することは、脳出血などリスクを伴います。かといって、そのまま穴を放っておくと、通常よりも肺に流れる血流が増えて肺出血のリスクがあります。
ですから、人工心肺装置を使用して穴を塞ぐという選択肢ではなく、肺にバンドを巻く手術(肺動脈絞扼術)を行い、肺に流れる血流を制限します。そして体重増加を待って、人工心肺装置を使用し、穴を閉じるという選択をすることが多いわけです。
つまり、
・体重増加を待って
・より本人に侵襲が少なく
・より安全な時期
に手術を行うべきだと考えます。
このように、より安全に最後の手術(根治術)を行うために、途中で手術(姑息的手術)を行うことがあります。
肺に流れる血流が多いか、少ないかで姑息的な手術が決まることが多いので、先天性心疾患の病気の一部を表にしてみます。(チアノーゼは酸素飽和度が低下し、肌が青紫にみえる様子です。)
肺血流増加 | 肺血流減少 | |
チアノーゼあり |
総肺静脈還流異常 完全大血管転換Ⅰ、Ⅱ型 両大血管右室起始 左心低形成症候群 総動脈幹遺残 大動脈縮窄、大動脈離断(下肢のチアノーゼ) |
純型肺動脈閉鎖 重症肺動脈狭窄 右室低形成症候群 Fallot4徴症 両大血管右室起始+肺動脈狭窄 |
チアノーゼなし |
房室中隔欠損 心室中隔欠損 心房中隔欠損 動脈管開存 |
※他にもたくさんの先天性心疾患の病気はありますし、複数の病気が組み合わさって、異なる病態となることもあるため、一概に表と同じにならない点は注意が必要です。
一般的には、姑息的治療が必要な場合に
・肺血流増加疾患には、肺動脈絞扼術(PAバンディング)で肺血流を減少させます。
・肺血流減少疾患には、Blalock Taussig shunt (BTシャント)で肺血流を増加させます。
こういった姑息的治療で身体的成長を待ち、適切な時期に安全に手術を行うことを目指すわけです。
先天性心疾患を治療していく時に、重要な考え方の二つ目は「二心室修復を目指すのか、一心室修復を目指すのか」ということです。
二心室循環は正常の心臓の循環と同じです。
二心室修復後の血流の流れは下記のようになります。
①心臓から酸素濃度が高い血流(動脈血)が体に流れる
②体で酸素を消費し、酸素濃度が低下した血流(静脈血)が心臓に戻る
③心臓から静脈血が肺へ流れる
④肺で酸素を取り込み酸素濃度が高い血流が心臓へ戻る。①へ戻る。
一方で、あまりにも生まれつきの一部の血管が細い、心室や弁が小さい(もしくは存在しない)場合には、この循環を確立することが困難な場合があります。無理に二心室修復するよりも、一心室修復を行った方がより安全な場合があります。
一心室修復後の血流の流れは下記のようになります。
①心臓から酸素濃度が高い血流(動脈血)が体に流れる
②体で酸素を消費し、酸素濃度が低下した血流(静脈血)が直接肺へ流れる。
③肺で酸素を取り込み酸素濃度が高い血流が心臓へ戻る。①へ戻る。
二心室修復が並列回路とするならば、一心室修復は直列回路のように血流が回っている様子がわかると思います。
例を挙げますと、左心低形成症候群(HLHS)は段階的に一心室修復を目指す代表的疾患として知られています。
シンシナティ小児病院のYoutube動画がビジュアルとして分かりやすいため動画のリンクを載せさせていただきます。
①ノーウッド手術とBTシャント手術
②両方向性Glenn手術
③Fontan手術(心外導管を使用したタイプ)
一心室修復、二心室修復のどちらの治療法にも、疾患により問題点や合併症などのリスクはあります。大切なことは、ひとりひとりの子どもの心臓に対して適切な治療をすることです。
先天性心疾患を理解する一助になれば幸いです。
心と体の健康を見守る街のお医者さん
コアラ小児科アレルギー科
〒330-0062 埼玉県さいたま市浦和区仲町1丁目3-5
クリニックステーション浦和仲町2階
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